【知財】ちょっと待った!発売しちゃって大丈夫?

 こんにちは、ちざる です。
 今日は、新商品が出来たとき、新しいものづくりに成功したとき、製品を発表する前に、そのアイデアを保護する、「特許」について、「お金」と「時間」をかけて取るべきか悩んでいませんか?
 今日は、そんな中小企業・フリーランスの方に向けたお話です。

 

中小企業の現状

 日本では、どれくらいの特許が出願されているのかご存知でしょうか? 答えは、年間約22万件(2022年特許庁行政年次報告書 以下リンク参照)
ここ最近では、日本国内の出願件数は、減少傾向にあります。理由は、大企業が日本国内の出願件数を減らしているから。言い方を変えれば、なんでもかんでも出願する時代は終わったということになります。
 それでも、特許登録ランキングをみると、1位三菱電機(3494件)、2位 トヨタ自動車(3389件)3位 キヤノン(3134件)と、年間数千件の登録がされています。 
 ご存知の方も多いと思いますが、日本は、全企業数の99.7%が中小企業と言われています。つまり、日本の大企業は、0.3%ということになります。

 一方で、特許出願に占める大企業の割合は、どのくらいか知っていますか。答えは83%、つまり、日本にされているほとんどの出願が大企業からの出願であり、中小企業からの出願は17%に留まっているのが現状となります。

 ちなみに、ブランドのロゴを保護する商標については、中小企業の出願が59.5%(約8万件/年)であり、特許との違いが良くわかると思います。

【2022特許行政年次報告】

特許行政年次報告書2022年版 | 経済産業省 特許庁

特許権とは

 特許権とは、何でしょうか。弁理士会のHPでは、特許権とは、発明を保護するための権利です。と記載されていました。ここで、発明とは、特許法には、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なのものをいう。と記載されています。

【日本弁理士会HP】

特許権と特許出願 | 日本弁理士会
特許権は発明を保護するための権利です。特許権と取得方法について解説します。

 弁理士試験ではないので、細かな定義については、説明をしませんが、「発明」≒「アイデア」について特許権を取得すると、その「アイデア」について、独占することができます。
 すなわち、自社だけでそのアイデアを含む製品を販売したり、無断でマネしてくる他社を排除したり、その製品を製造・販売したい人にライセンスしたりすることができるようになります。

 このように、魅力がいっぱいの「特許」ですが、中小企業社の出願割合がなかなか増加しない理由があるのも事実です。

特許権取得のメリット・デメリット

【メリット】

 特許権を取得するメリットは、大きく4つあると考えています。・・・ほかにもあるかも

① 権利をとれた、アイデアについて技術を独占できる。

 これは、先程の説明と重複しますが、特許権を取得することで、その「アイデア」について独占して実施することが可能になります。すなわち、基本的な技術について「特許権」を取得することができれば、その新しい市場において、他社の参入を一定期間防ぐことが可能になります。

② 市場参入・実施確保

 進出したい新たな市場における特許を取得することで、その市場におけるプレーヤーとしての切符を取得することができます。そのため、その市場における特許権を一つも有していない企業と比較してより確実にその市場に参入することが可能となります。

 また、すでに参入している市場であれば、その中で、特許権を取得することにより、製品やサービスに対して、技術的な付加価値を付けて、他社製品との差別化をすることができるようになります。

③ 広告宣伝

 これは、通信販売等で物を買うときに、「特許製法」とか、「特許取得済み」とかを前面に出してくるサプリメントや、家電のコマーシャルやパンフレットを見たことがある方も多いと思いますが、これがそれにあたります。

 実際の特許権の内容を検索してみると、些細なことであっても、ほとんどの人は権利内容まで調べることはしないので、「特許〇〇」とみると、なんかすごい技術で作られたのではないかと思いますよね? これが製品を買う一つの動機になるようです。

④ ライセンス

 もし、あなたがアイデアについて、特許権を取得はしたけど、事業化する程の設備を持っていない場合や、全国規模での販売するほどの力はまだないような場合には、その特許権を売ったり、誰か実施できる方にライセンスしたりすることで、お金に換えることができます。

【デメリット】

 特許権を取得する際のデメリットとしては、以下の3つの理由があると思います。

① 特許取得~権利維持までにかかる費用

 特許出願をする場合にほとんどの方は、自分で明細書を作成することはないと思います。というか、まったく特許関連のことをされたことがない方が、一人で特許庁への提出書面を作成することは、オススメしません。負担が大きい割には、結果、考えていた範囲の権利が取得できないこともあります。

 そこで、特許出願をされる場合には、特許庁に支払う費用(印紙代と呼ばれる)と、代理人(弁理士)に支払う費用(代理人費用)の2つの費用がかかります。

・印紙代 

 ここでは一般的な国内特許出願を例に説明しますが、特許出願をする場合には、以下の特許庁のリンクに記載の通り、出願費用として14,000円の印紙代がかかります。さらに、特許では、審査請求と呼ばれる手続きが必要なため、権利化を目指して、審査請求をすると、例えば、請求項が1個であった場合でも15万円ほどの費用がかかります。

 さらに、めでたく特許査定(特許として認められた)となった場合には、表4.に記載の特許料がかかります。また、この特許を維持していくためには、表4.の通りの維持費用が発生します。

【特許庁HPの特許料について】

産業財産権関係料金一覧 | 経済産業省 特許庁
産業財産権関係料金一覧

・代理人費用

 代理人費用については、明確に決まった価格はありませんが、中小企業の方や個人の方の出願の場合には、打ち合わせ+明細書作成+出願手続きで25万~30万円/件ではないでしょうか。代理人の出願手数料については、その発明の難易度や、分野、明細書のページ数、請求項数により費用が大きく変わりますが、おそらく30万くらいはかかると思っていた方がよいと思います。

 また、審査請求を行うと、ほぼ一回は拒絶理由という特許庁からの請求の範囲の内容について、見直しを指摘されます。この拒絶理由に対しては、所定の期間内に対応しないと拒絶が確定してしまいますので、特許庁の指摘に対して、反論することになります。

 この手続きも通常は、代理人が行いますので、代理人手数料が発生します。例えば、請求の範囲を補正するための「補正書」と、その説明を記載した「意見書」を提出した場合を考えると、それぞれに6万円ほどの費用がかかると思います(ここの手数料もその分量等により上下します)。

 そして、弁理士の対応によりめでたく特許査定となった場合には、謝金が発生する場合が多いと思います。この費用も特に決まってはおりませんが、大体6万円から10万円になると思います。

 手数料の詳細については、以下に弁理士会が弁理士に行った報酬についてのアンケートがありますのでこちらを参考にしてください。

【日本弁理士会HP 弁理士報酬に関するアンケート】

弁理士の費用(報酬)アンケート | 日本弁理士会
弁理士の費用(報酬)アンケート ※平成18年実施のアンケート結果を追加しました。 はじめに 報酬の体系 報酬の

 ここで、特許庁に収める印紙代と弁理士への費用を合計すると、大体1件出願するのに60万~70万円の費用がかかります。

 中小企業の場合には、印紙代については、特許庁の規定する中小企業に該当する場合には、審査請求費用と特許料については、申請すれば減免(安くなる)を受けることができます。
 ですが、この手続きを出願人が一人できることは、ほぼないため、弁理士に依頼するとその分、減免手続にかかる手数料が発生する場合もあり、思ったほど安くならないなんてことに・・・

 と、一連の手続きにかかる費用のために出願をためらう方も多いと思います。

② 利益につながらない

 これは、70万円近くかけて、せっかく特許を取得したのに発売した商品が全然売れなかった場合とか、取得できた権利範囲が狭く、類似品が安く販売されてしまった等の場合です。

 

③ 技術の公開

 特許権は、その性質上、技術の公開の替わりに一定期間の独占権を出願人に与える制度であるため、特許出願を行った技術は、一定期間が経過すると原則すべて公開されます。この技術の公開を恐れて、何もかもノウハウとして秘密にする方も多くいると思います。

 

【デメリットに対する考え方】

 先に列挙したデメリット①~③をそのまま捉えてしまうと、特許出願なんてしない方がいいんだ、特許は大企業のような資金に余裕のあるところがやる特別なものだと考えてしまうと思います。

 しかしながら、例えば、販売された製品を買った人が分解や分析すればわかる技術について、特許権を取得できる可能性があった場合、公開制度を理由に出願を行わないのは、意味がないと思います。

・・・製品を発売したら、技術を秘密に出来ないのだから・・・です。

 一方で、完成したアイデアが、分解してもわからない場合・・・例えば、新しい発色剤を開発した場合で、発色剤の原料を混ぜるタイミングがその発色剤の製造上で重要な場合には、製品の発色剤を分析しても、混ぜるタイミングはわからないので、ノウハウとするのが差別化にとって良いかもしれません。

 さて、アイデアの技術公開の有無よりも、やはり、一番の問題は、費用になるのかなと思います。費用については、1件あたり、出願手続きまでで30~40万円かかりますが、この出願を行っておくことにより、他社の同様の技術を用いた製品の参入を遅らせる可能性を獲得できます。(といっても、相手の市場参入を困難にしたのか、実際にはみることはできないのですが・・・・)

 さらに言えば、特許出願は、販売後には、原則できませんので(例外手続きありますが)、その技術について、出願できる機会はこのときしかありません。

 例えば、特許出願を行っておくことにより、競合がこの特許技術を回避した技術を開発して市場に出すまでに5年かかると予測できるのであれば、その期間はこの技術にかかる製品について独占して販売ができるので、そのための先行費用と考えればそれほど高くないかもしれません。 

補助金関連

 この記事を読んでいるあなたが、中小企業に属する場合には、特許権の取得に係る費用をさらに圧縮させることができる可能性があります。

 それが、「減免制度」と「補助金」です。

「減免制度」

 「減免制度」は、特許制度上に定められているもので、審査請求費用と特許料が対象になります。あなたが対象となる中小企業のタイプにより受けられる減免措置が異なりますが、

例えば、「中小企業(中小ベンチャーではない)が、通常の特許出願を行った場合の審査請求料と特許料(1~3年目)は、通常15万円ほどのところが、7万5千円と印紙代が半額になります」

 これは、一例ですので、詳しくは、特許庁の手続料金計算システムにいろいろ打ち込んでみるとよいと思いますので、以下にリンクを貼っておきます。

【特許庁の手続料金計算システム】

国内出願に関する料金 | 経済産業省 特許庁

【特許庁 減免制度について】

2019年4月1日以降に審査請求をした案件の減免制度(新減免制度)について | 経済産業省 特許庁
特許料等の減免制度

「補助金」

「補助金」は、各都道府県や市区町村において、様々な事象に係る費用等についてサポートを受けることができる制度です。 補助金の言葉自体は、例えば、コロナで影響を受けた事業者の方に対するものがよく知られていると思います。

 同様に、中小企業の活性化を目的として、各都道府県等が独自に補助金を設定している場合がありますので、特許出願等を行う前には、あなたの住んでいる地域の都道府県の補助金を調べておくと、もしかしたら、条件にあうものがあるかもしれません。

 補助金の種類によっては、国内出願の代理人費用についても一部補助してくれるものもあり、減免制度と合わせて使えば、大きく費用の圧縮が可能になります。

 なお、特許事務所では、減免制度については、熟知していますが、補助金については、地域によって異なっていたり、期間が限定されていたりするので、細かく把握していないことが大半となります。

 このため、特許相談の中であなたが見つけた「補助金」制度が、今回の手続きに利用できるのか確認し、利用できる場合には、一緒に進めていくとスムーズと思います。

まとめ

 さて、今回は、「ちょっと待った!発売しちゃって大丈夫?」ということで、特許権を取得すべきかどうかを、製品販売や展示会での公開の前に、1つの工程として組み込んでもらいたいと思い記事にしました。

 まだ、中小企業の出願は17%程度ではありますが、じわりじわりと増加傾向にあります。あなたが販売する製品を守るためにも特許出願を頭の片隅に残してもらえると幸いです。

 もちろん、ノウハウにした方が良い技術もいっぱいあるのも事実です。

 特許出願するか、しないのかに「正解」はありません。

 もし、知財でお悩みの場合には、ご相談ください。出願の代理等は行っておりませんので、第三者的な立場からのアドバイスを行えます。

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